第20回Recital 鳥の歌 El cant dels ocells
2010年10月2日@Hakuju Hall
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ソプラノ谷めぐみは、私の指導の下、バルセロナでスペイン歌曲を学んだ。彼女は我が国の音楽に対し、常に大いなる共感を示すとともに、極めて高い感受性をもって真摯なる姿勢で臨み、適確かつ一流のスペイン歌曲の歌唱法身につけた。
また『日本民謡集』の出版にも協力を惜しまず、すべての歌詞をスペイン語に訳してくれたほか、同民謡集の表紙が、父君の見事な筆字による題字で飾れるよう取り計らってくれた。これらの作品をバルセロナ市庁舎内「百人会議の間」で彼女と共演したことは、実に美しい思い出として私の心に残っている。
谷めぐみは、その深い愛でスペイン音楽を体得している。彼女が全身全霊を傾け、細やかに磨き上げた、彼女ならではのスペイン歌曲の世界。第20回リサイタル“鳥の歌”が、その歌唱にふさわしい成功を収めることを心から願っている。
マヌエル・ガルシア・モランテ(作曲家・ピアニスト)
2010年4月8日 バルセロナにて
『鳥の歌』を思うとき、真っ先に心に浮かぶのは1971年国連でのパウ・カザルスの演奏、そして1992年バルセロナオリンピック閉会式でのヴィクトリア・デ・ロス・アンヘレスの名唱です。95歳目前のチェロの巨匠が渾身の力をこめて発した平和へのメッセージ、消えゆく聖火を背景に朗々と歌い上げられた魂の救い。スペインの偉大な芸術家による『鳥の歌』は世界の人々に深い感動を与えました。
昨年のリサイタルの数日後、ある方から『鳥の歌』への想いが綴られたお手紙をいただきました。深い悲しみの中に優しい“鳥”がそっと息づくような、とても切ないお手紙でした。
「鳥の歌、いいですね」というお声をよくいただきます。どこか寂しげな旋律が胸に迫りくるのでしょうか。「スペインといえば、ほら、あの曲…」と一生懸命に思い出してくださる方、「エッ?クリスマスの歌だったのですか?」と驚かれる方…。スペインをお好きな方にも、あまりご存じない方にも、『鳥の歌』は静かに愛されています。
私自身のことを申せば、スペインの歌に出会って間もない頃からこの曲が無性に好きでした。バルセロナで歌ったとき、ひとりの老婦人が目にいっぱいの涙を溜めて抱きしめてくれた思い出は忘れられません。“tesoro de mi corazón”かけがえのない宝として、大切に歌ってまいりました。
時を越え、場所を越え、自在に姿を変えて響く『鳥の歌』。この歌を縦糸に、重ねた年月を横糸に、私の心のスペインを織り上げてみたい、そんな夢から生まれたのが今日のプログラムです。いっぱいの願いをこめて歌います。どうぞ皆様おひとりおひとりのお心に、幸せを告げる“鳥”が舞い降りてくれますように!
2010年10月2日