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第25回 Recital  スペイン浪漫Ⅱ

~エンリケ・グラナドス没後100年に捧ぐ~

Homenaje a Enrique Granados en el centenario de su muerte
2016年9月19日@Hakuju Hall

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谷めぐみに天才グラナドスの真髄を聴こう

 スペインが誇る天才ピアニスト・作曲家エンリケ・グラナドスが、第一次世界大戦の罪なき犠牲として英仏海峡に没した-乗り合わせた英汽船がドイツ潜航艇に急襲された-のは、1916年3月24日、ちょうど100年前のことである。作曲家はまだ48歳の働き盛りであった。100周年を記念し、今年の「スペイン浪漫」はグラナドスの歌曲集が主になる。大画家ゴヤ(1746-1828)の時代に生きた、装いも心も「粋」そのものだったマハ(粋な女)とマホ(だて男)の世界……そこへの尽きぬ憧れを綴った調べを、谷めぐみが彼女ならではの感性、同化力をこめて、素晴らしく表現してくれることに疑いはない。更に、グラナドスに縁のあった周辺の偉材たちの作品も並べられ、中には彼を「スペインのシューベルト」と呼んで敬愛した巨匠カザルスが作った歌曲「さようなら…!」(これは筆者も初耳)まで用意されている。谷めぐみの世界は、つくづく深い。

                           

音楽評論家・スペイン文化研究家 濱田滋郎

 1985年初夏のある日、師マヌエル・ガルシア・モランテと一緒に、エンリケ・グラナドスの末娘ナタリアさんのお宅を訪ねました。美しい銀髪、お父様ゆずりの大きな目…。初めてお会いするのに初めてのような気がしない、不思議な親しさ、温かさがありました。ご挨拶の後、師のピアノ伴奏で、『昔風の粋な歌曲集』と『愛の歌曲集』を歌わせていただきました。「日本から来たniña(小さな女の子)がパパの曲をこんなに素敵に歌うなんて…」演奏が終わるやいなや私をギュッと抱きしめてくださったナタリアさん。その大きな目に涙が光っていたことを懐かしく思い出します。

 エンリケ・グラナドス(1867-1916)は、第一次世界大戦さなかの1916年3月24日、スペインへの帰国の船がドイツ潜航艇の無差別攻撃を受け、48年の生涯を閉じました。天才ピアニスト、作曲家として名声を極め、生涯最高の作品オペラ《ゴイエスカス》を書き上げ、ニューヨーク・メトロポリタン歌劇場での初演を見届け、ホワイトハウスに招聘され、友たちの祝福を受け、喜びと安堵に満たされてバルセロナへ帰る、その途中の出来事でした。激しい衝撃、傾く船体、海に投げ出される人々…。グラナドスは一旦救助されかかったものの、波間にもがく妻を見つけ、再び海に飛び込んだと伝えられています。内外の多くの音楽家が彼の突然の死を悼みました。

 「私の音楽は私の内奥から生まれる」グラナドスが残した言葉です。没後100年記念の今年、真の芸術家グラナドスに憧憬の念を捧げ、平和を願い、名歌曲の数々を演奏させていただきます。天上のナタリアさんもきっと耳を傾けてくださることでしょう。「niña」と呼んでいただくのは、さすがにもう厚かましく存じますが…。

本日はご来聴いただき誠にありがとうございました。

                        2016年9月19日

                                                谷 めぐみ

                                      

                                                             

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